
今回の書評は、『読みたいことを、書けばいい。人生が変わるシンプルな文章術 田中泰延』だ。「泰延」は「ひろのぶ」と読む。
過去に電通に勤め、コピーライターやCMプランナーとして活躍した田中氏が文章術について書いた本である。
文章術というと、あれこれこまかなノウハウが書かれているものが多いが、本書はそれらを斜に見て、ナナメ上から文章について語った内容となっている。
文面からは、著者の人となりが伝わってくる。田中氏独特の言い回しなどが読む手を止めさせてくれない良書である。
「はじめに」を読めばどんな人なのかはすぐわかるはず。
まさに「読みたいことを書いた本」と言えるだろう。
また、内容は非常に砕いた内容で、中学生や高校生でも理解できる内容となっている。子どものうちからこういった本を読んでおくと将来役に立つかもしれない。
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『読みたいことを、書けばいい』がオススメの理由


文字が多い本は、それだけで読みたくなくなることはよく知られている。大切なことは文字が少ないことである。
どんな本にも言えることだが、本に書かれている文字すべてが大事ということはあり得ない。
内容の2、3割程度にだいたい大事なことが書かれている。
本によっては、一文、二文くらいしか心に響かない本もあるだろう。
ゆえに、文字をどれだけ削れるかが大事になる。
ある意味、作家は書くよりも削る能力のほうが重要だったりすることもある。
また、単純に文字が多すぎるとついてこれない人がいるということも言える。
万人に読んでもらおうとするならば、文字が多すぎるというのは敬遠させてしまう要因となり得るということだ。
作家の中には、とにかく自分の書きたいことを書いている人もいる。
例えば、ミステリー作家の京極夏彦氏の本は、万人受けとは程遠いところにあると言えるだろう。
非常に難解で、難しい言葉も多数出てくるし、何より本が尋常じゃないくらい分厚いのだ。
それでもファンはしっかりとつき、指示を受けることもできる。
ちなみに私も京極夏彦氏の本は大好きである。
だが、やはりビジネス書や自己啓発本など、人に伝えるということが目的の場合、文字をいかに削るかは死活問題なのだ。
ただ、言葉を羅列するだけではなく、いかに文字を少なくするかを常に考える必要があるだろう。
しかし……、
田中氏はこうも言っている。
なので今回は、全体のわずか98%程度に無駄な文章を散りばめることによって、なんとか1,500円で発売することに成功した。良かった。わたしにも生活があるのだ。
( ゚Д゚)
こういった点が本書のおもしろさと言えるだろう。
これは著者の謙遜でもあるのだが、内容は非常にスリムになっており、無駄の少ない本と言えるため、是非最初から最後まで読んでみてほしい。
文章を書くときはターゲットを決めるべきか否か


「ターゲット」という言葉の下品さといったら相当なものだ。だいたい、「ターゲット」とはなんだ。射撃と文章を間違えていはいけない。
本を出版する場合や、企業がプロジェクトを進める場合、「ターゲット」を設定することはもはや当たり前のことである。
しかし田中氏はそれを「下品」と言い切るのだ。
物を売る側からすれば「ターゲット」は必要不可欠なファクターであろうが、「ターゲット」とされるほうとしてはたまらない。
「30代40代の女性をターゲットに」などと、勝手にターゲットにされるのは気分がいいものではないだろう。
田中氏いわく、読み手など想像しなくていい、と。
書いた文章を最初に読むには自分だから、自分がおもしろいと思えることを書くべきだ、と。
万人受けを狙っても、ターゲットを決めても、誰かひとりのために書いても、それが反響を得るかどうかはわからない。
無駄になることのほうが多いはずだ。
ならば、自分が納得行くもの、自分が読みたいと思えるものを書くことが、まずは大事なのだろう。
仮に自分がおもしろいと思えないものが、世間に評価されたとしたらそれは複雑な気分になるはずだ。
いや、それでお金を得ることができたらそれはそれでいいか……。
つまらない人間とは「自分の内面を語る人」


つまらない人間とはなにか。それは自分の内面を語る人である。少しでもおもしろく感じる人というのは、その人の外部にあることを語っているのである。
本書は文章術について書かれた本だが、こういった人としての考え方についても書かれた本である。
もちろん、文章を書くには内面ばかり語っていてはいけないということだ。
随筆とは、事象を提示してから心象を述べること、と書かれており、まずは外部の事象があってこその文章なのだ。
周囲にいないだろうか、やたらと自分のことを語る人が。
そういう人は周囲から底の浅い人だと思われてしまうのだと思う。
ペラペラと自分の内面をしゃべってしまい、簡単に自分をさらけ出すことで底の浅さが見えてしまうのだ。
内面ではなく、外部の事象にフォーカスして語る人は、内面が見えず、仮に浅かったとしても他人からはわからない。
深い深い海のような内面なのか、それとも足首程度までしか浸からない程の浅瀬なのか、どちらであっても語らなければ人は謎めいた人として解釈される。
ゆえに内面を語らない人は、一目置かれる存在になるのだ。
もちろん、よくわからない人、というふうに片付けられるパターンもあるだろうが……。
とにかく、あれが嫌だ、これが嫌だ、などと語っていると自分が損をするだけなので気をつけよう。
またそういった見方ばかりしていると良い文章というのは書けない。
常に外部の事象に目を向け、それにより自分の心がどう動くかを観察するべきだろう。
『読みたいことを、書けばいい』、おわりに
最後に本書の中で重要かつタメになる文をひとつ引用して締めるとしよう。
この意味が知りたい人は是非本書を読んでほしい。
そんな物はない。
