
今回の書評は、160回直木賞を受賞した『宝島 真藤順丈著』だ。
本書は沖縄の地に住む若者に焦点をあて、米軍統治下から沖縄返還までの約20年の歳月の流れを描いた作品だ。沖縄が抱える問題に真正面からぶつかった作品と言えるだろう。
この本からは、沖縄の気温、沖縄のにおい、沖縄の色、沖縄の味、沖縄の感触、それらすべてを感じることができるほど、生々しく描かれている。
沖縄に住んでいる人も沖縄から離れた人も、本書から故郷の手触りを感じることだろう。
「さあ、起きらんね。そろそろほんとうに生きるときがきた――」
直木賞受賞『宝島』あらすじ
舞台は沖縄。主な登場人物は以下のとおりだ。
オンちゃん(二十歳)
グスク(十九歳)
レイ(十七歳)
ヤマコ
年齢は1952年時点での年齢だ。彼らは、「戦果アギヤー」と呼ばれ明日を生きるために米軍基地から物資を奪うのだ。
そのリーダー格であり、伝説となっているのはオンちゃんである。
しかしそのオンちゃんは嘉手納基地に忍び込んだのち、行方不明となってしまう。それからのこの物語は、グスク、レイ、ヤマコ、それぞれの視点から紡がれていく。
果たしてオンちゃんはどこにいったのか。
ちなみに「戦果アギヤー」とは実在する言葉だ。
戦果アギヤー(せんかアギヤー)とは、アメリカ統治下時代の沖縄県で発生した略奪行為。「戦果をあげる者」という意味である。
元来は沖縄戦のときに、敵のアメリカ軍陣地から食料等を奪取することを指していた。
引用:ウィキペディアより
沖縄戦後、米軍統治下におかれた沖縄で、強くそしてしたたかに暮らす若者たちを描いた作品である。
戦果アギヤーの存在

もしもこの島に戦果アギヤーがいなかったら、地元民がどれほど貧しくて、どれほど空腹や屈辱を強いられるか、地元の警官とちがってアメリカの憲兵(MP)たちは想像もしないだろう。グスクも十代のなかごろは、食べそこねたご飯のことばかりを考え、ほとんど土と変わらない色のつぎはぎを着まわして、便所で用を足したあとの尻をさとうきびの葉で拭いていた。裸足の足はいつも膝の上までほこりまみれだった。
基地から物資を盗むことは悪い事、これは当たり前のことだが、ここにあるような生活が本当にあったのならば沖縄に住む人々の行動を簡単には責められない。戦争でのいちばんの犠牲者は沖縄に住む人々なのだから。
小説のなかでは、小学校の木造校舎はオンちゃんが米軍の資材場から集めた木材で建てたもの、とある。そこまでしなければ子どもが学ぶ場を用意することができないのだ。
だからこそオンちゃんは伝説であり、英雄なのだ。
「おれたちの、英雄さぁね」
沖縄の美しき風景

本書では随所に沖縄の情景を現す表現が出てくる。それが沖縄の美しさや尊さを表している。
ひとつ引用しよう。
夜明けの世界は、奇妙なほどに静かで、無彩色だった。
前方には、暁の光に澄みわたる美ら海を望むことができた。
燃えるかまどのような銅色の光が差して、熾った目を潤わせる。海には幾筋もの航跡のような金色の帯が伸びていた。
著者はこういった沖縄の情景を見たことで、本書のタイトルを「宝島」にしたのだろうか。
本書を読めば、沖縄出身の人は自分の故郷を思い出すだろう。沖縄に行ったことがない人でも、そこに美しき島の情景を浮かべることができるだろう。
直木賞受賞『宝島』、おわりに
最後に一文を引用して締めるとしよう。
本書を読んで、構想7年、執筆3年をかけた著者の想いを受けとってほしい。
「オンちゃんは、帰ってきてたんだなあ」
