
今回の書評は、『社内政治の教科書 高城幸司著』だ。
会社のなかで人間関係や出世争いで悩んでいる人にオススメの本である。
上司、部下どちらの立場の人でも参考になる本となるだろう。
社内政治については冒頭にこう書かれている。
政治力というと 、権謀術数や裏取引などのネガティブ ・イメ ージをもつ人も多いと思いますが 、そうではありません 。注力すべきなのは 、あらゆる機会をとらえてあなたの影響力を生み出し 、それを増幅していく好循環をつくり上げることです 。社内政治とは 、 「影響力のゲ ーム 」なのです 。
社内政治というとバチバチと議論をぶつけあったり、はたまた裏で腹黒い人間関係の駆け引きがあったりと、悪いイメージばかりが浮かぶが決してそうではない。
そもそも会社をよくすることが目的なのだから、なかにいる社員たちの人間関係が最悪では会社がよくなるわけもない。仮に業績があがったとしてもそれは長続きしないだろう。
敵を作ろう、という話ではない。
どちらかと言えばうまく立ち回ろうということ。結果、敵は増えるのではなく減るはずだ。
要は、あなたが影響力をうまく使い社内を立ち回ることができるかどうか、というゲームなのだ。
相手に重要感を与える

「名前 」で呼びかけることも大切です 。興味深い心理実験があります 。どんな言葉をかけられたときに 、人間はもっとも喜びを感じるかを調査したものです 。直感的に 、 「 〝ありがとう 〟 〝すごいね 〟などの言葉だろう 」と思ったのですが 、違いました 。 「本人の名前 」なのです 。
これは上司と呼ばれるポジションにいる人が気をつけなければならないことだ。
名前で呼ぶというのは、その人の存在を認めるということ。人は人から肯定されたい生き物なのだ。それなのに「お前」「おい」などと部下を呼ぶ上司はだいたいが尊敬されていない。尊敬されていないことがわかっているから、そういった横柄な態度になるのかもしれないが。
卵が先か鶏が先か、ではなく、上司からしっかりとはたらきかける必要があることなのだ。
挨拶のことも書かれていたが、まともに挨拶を返さない上司というのは今の時代でも星の数ほどいる。何か勘違いしたまま出世してしまったのだろうか。
その勘違いに気づいたのなら今からでも遅くはない。名前で呼ぶこと、挨拶をすること、この基本的なことを見直してみてはいかがだろうか。
求心力のある上司が必ずやっていること
ある外資系コンサルティングのマネジャ ーには驚かされました 。抜群の業績を上げる部門のリ ーダ ーとして内外から高い評価を得ている人物でしたが 、部下一人ひとりの事情を事細かに把握しているのです 。 「彼は最近 、奥さんとモメているらしく 、睡眠不足みたいだ 」 「彼は副業で失敗して 、お金が必要らしい 」
ここで勘違いしてはいけないのは、根掘り葉掘り聞けということではない。
重要なのは話を聞くことではなく、プライベートなことまで相談できるほど信頼できる上司であるかどうか、という点だ。
信頼できるのであれば仕事以外のことも部下から相談してくるようになるだろう。
信頼できないのであればプライベートのことなど話すわけがなく、仕事のことでさえ報告が怠ってくるだろう。
それは上司であるあなたの態度や信頼性に問題があるのだ。
これは経験上思うことだが、「相談しに来い」という上司に良い上司はいない。相談をしやすい上司ならその時点ですでに相談に来ているはずだからだ。
「相談してこい」と言うことは、「自分は部下から相談されない上司です」と言っているようなものなので、あてはまる上司の人は自分の言動を改めよう。
上司を変えようとするのは最悪のアプローチ

当たり前のことですが 、誰でも自分の欠点を指摘されるのは嫌なものです 。しかも 、役職が上がれば上がるほどプライドは高くなりがちです 。部下からその欠点を指摘されて平常心を保てる人物などいないと考えておいたほうがいい 。
人は変わらない ─ ─ 。これは 、社内政治を進めるうえで 、忘れてはならないポイントです 。むしろ 、上司に欠点があることを前提に 、いかに良好な人間関係をつくるかを考えるべきなのです 。
これは部下であるあなたへの忠告だ。上司を変えようとしてはいけない。
何か仕事のサポートをするなら問題ないが、面と向かってこれは違う、というようなことを言ったところであなたに何のプラスもない。
その場では、わかったと言う上司もいるだろうが、それはわだかまりとなり、別のところであなたに返ってくることになる。
上司を変えようとすることは、労力や時間が必要だし、精神的にも削られることだ。そこまでして上司を変える必要など何もない。
その上司が本当に必要のない存在なのならば、それは遅かれ早かれ顧客か会社が気付くことになるだろう。
それまであなたは、あなたのできることだけをしていればいい。戦うなら賢く、これをあたまに入れておこう。
社内政治の教科書、おわりに
最後に本書の中で紹介されているドイツのノーベル賞作家、トーマス・マンの遺した言葉を引用して締めるとしよう。
「政治を軽蔑する者は 、軽蔑すべき政治しか持つことができない 」
