
今回の件書評は『さよならインターネット 家入一真著』だ。
まず著者がこの本で伝えたいことを紹介しよう。
この本を通じて行いたいことは、大きく以下の二つです。
一つ目はインターネットのおかげで誰もが情報発信できるようになった世界で、かつて抱いた「何者にでもなれる」「世界の中心になれる」という夢はどこまで果たされたか、ということの検証。そして二つ目が、輪郭を失う世界と向き合ってきた自分の経験や考えから導き出す、その未来像の探求です。
ハサミを好き

「TwitterもFacebookもやる必要を感じない、LINEだけでいいんです」なんて言ううちのインターン(20)が、「家入さんはよくインターネットが大好きって言ってますけど、それがそもそも僕にはよくわからない。なんだか、ハサミを好きって言ってるみたいで」と言ってて震撼。
インターネットはあって当たり前の現代において、インターネットが好きという言葉はおかしなものに映るのだろう。
ハサミが好きと言ったらおかしいだろう。本当にハサミ好きな人がいたすれば、先に謝っておく。
これは完全に世代の差だろう。生まれたときにインターネットが存在していたか否かである。
人はもともとあるものについては、すんなり受け入れることができる生き物だ。逆に、生まれてから登場したものについては、拒否反応を示すのだ。
これは会社にいる年配の人たちをみればわかるだろう。歳をとればとるほど人は新しいものを受け入れられなくなる。
だからインターネットもそうだろう。
この当たり前という感覚は、インターネットを活かしていくという観点で見ると非常に重要だろう。あって当たり前、から入るからそこから新しい案を生むまでが早い。当たり前でない世代は、イメージとしては一度接続してからだから遅い。
イノベーションを起こすのは若い世代のほうが有利ということがわかるだろう。
人工知能

そういえば当時、みかんちゃんという、チャットを通じてよくやりとりをする相手がいました。彼女(?)は不思議なことに、いつでもオンラインになっていたのでうれしくなって、毎日のように長時間やりとりしていた時期がありました。
ぼくの打ち込んだメッセージに、いつもやさしい返事をくれるので、「いい子だなあ」「少しは仲よくなれたかなあ」などと思っていたのですが、あるとき彼女が実在する人ではなく、ただのプログラミング、いわゆる「人工無脳」だということを知ります。これには大変驚かされました。
これは今後更に増える事案であろう。SNSでやりとりをしていたが、実はAIだったというオチだ。
SNS上で恋に落ちてしまうこともあるだろう。そうなると、真実がわかったとき怒りをぶつける場がないだろう。そのうち、騙されてAIに恋してしまった精神的ストレスに対して慰謝料を求める裁判、なんてものが出てくるかもしれない。
これからは人間とAIの差異がどんどん小さくなっていく時代だ。それが100年後なのか10年後なのか、それは誰にもわからない。
孤独な時間をつくる

実は「孤独」は、大きな可能性を秘めていると思います。引きこもった時期があるからこそ、なおさらそう感じるのかもしれませんが、みんながつながり合っている時代だからこそ、ますます大きな意味を持つはず。ぜひ次の週末あたり、久しぶりの「孤独」を味わうことをおすすめします。
あなたは今、孤独を感じているだろうか。
現代では、人と人のつながりは希薄になっていると言われる。直接会うのではなく、電話やメールで要件を済ませることができるため、会う必要性も時間もないのだ。
だから、孤独、なのかもしれない。
しかし、インターネットの進化により、人はいつでも人とつながることができるようになった。SNSにつながれば必ず誰かがいるし、特定の相手とつながりたいならチャットがある。顔を見たいならビデオ通話をすればいい。
少し手を伸ばせば誰かとつながるし、ひとりでいたとしても誰かからコンタクトがあったりする。
そういう意味では真の孤独とは、現代人は無縁なのではないだろうか。一昔前よりも、その孤独は薄れているのかもしれない。
だからこそ孤独を味わうことは大事だと著者は言っている。
誰とも会わずひとりになるだけでなく、インターネットも遮断して、完全なひとりの時間をとろう。
孤独とは、弱くなることではない。孤独を経験することで人は強くなるのだ。
孤独とは、熱を失うことではない。孤独を味わい自分の心を深く深く探ることで、自分のなかに眠る熱を探し当てるのだ。
現代で真の意味で孤独になることはない。恐れず孤独を味わおう。
さよならインターネット、おわりに
最後の著者からのメッセージを引用して締めるとしよう。
だからこそ、みんなで今までのインターネットに一度「さよなら」を告げませんか。輪郭を失い、閉ざされ、冷たくなりつつあるその世界に。
そして、これからまたみんなでその輪郭を探り直して、そこから築き上げるインターネットの世界に「こんにちは」と言いませんか。
さあ、あなたも一緒に。

さよならインターネット - まもなく消えるその「輪郭」について (中公新書ラクレ 560)