【書評】第160回芥川賞受賞『ニムロッド 上田岳弘著』を読んだ感想。題材に仮想通貨採掘を選んだ新時代のビットコイン小説。

ニムロッドを書評するPANDA
 

ニムロッドを書評するPANDA

パンダ
ニムロッドってなんだ?

今回の書評は、第160回の芥川賞を受賞した『ニムロッド 上田岳弘著』だ。

本書は題材として仮想通貨を取り入れた小説である。

仮想通貨や採掘について知らない人にとっては、ちょうどいい入門書となるかもしれない。

芥川賞受賞作ニムロッド、あらすじ

パンダ
仮想通貨のこと知らない人には難しいんじゃないかね。

本作の主な登場人物を紹介しよう。

・中本哲史(ナカモトサトシ)
・田久保紀子
・荷室仁

中本哲史は、ビットコインを作ったとされるあの「サトシ・ナカモト」と同じ名前である。中本は奇しくも会社でビットコイン採掘の事業を担当することになった。

田久保紀子は、中本の恋人である。

そして荷室仁は別の呼び名があり、それが小説のタイトルともなっている「ニムロッド」なのだ。ニムロッドは中本の会社の先輩で、仕事をするかたわら小説家を目指している。

中本が仮想通貨の採掘をはじめるきっかけとなった社長とのやりとりを引用しよう。

金を掘れ、という話の詳細を聞くと、「ビットコインだよ」と簡潔に返事があった。
「ビットコイン?」
「ん、中本さん、知らない? ようは仮想通貨だよ」
「仮想通貨?」

これから、「仮想通貨」や「ビットコイン」という言葉が小説に登場してくる回数は多くなるだろう。

「ポケベル」が「携帯電話」になり、「スマートフォン」になるように、小説にもその時代が反映される。ただ、なんとなく違和感があるせいか今でも「携帯電話」と表記する作家は多い気がするが、これは徐々に変化していくだろう。

それと同じように、「ビットコイン」が更に広まり、多くの人が当たり前に使う時代になれば、小説に「ビットコイン」が登場するのは当たり前になるはずだ。

ただ、それにはビットコインもしくは仮想通貨が値をしっかりと保つことが肝要だ。このまま値を下げ続けたら過去の遺物になってしまうかもしれない。

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2019.01.18

ニムロッドから中本へのメール

パンダ
ニムロッドって一体何者?

ねえ、中本さん、僕は思うんだけど、駄目な飛行機があったからこそ、駄目じゃない飛行機が今あるんだね。でも、もし、駄目な飛行機が造られるまでもなく、駄目じゃない飛行機が造られたのだとしたら、彼らは必要なかったということになるのかな?
ところで今の僕たちは駄目な人間なんだろうか? いつか駄目じゃなくなるんだろうか? 人間全体として駄目じゃなくなったとしたら、それまでの人間たちが駄目だったということになるんだろうか? でも駄目じゃない、完全な人間ってなんだろう?

これはニムロッドから中本へのメールの一部だ。飛行機に関するメールを送り付けてくるなど、ニムロッドは謎の多い人物だ。

駄目な飛行機があることで駄目じゃない飛行機がある、という表現は正しい。しかし、駄目という単語がどこか虚しさを醸しだしてしまっている。

世の中は常に進化しているため、過去のものはいずれ新しいものにとって変わるもの。だから過去のものは必要なものであり、駄目なものではないはずだ。

しかし、何か新しいものを発見したとき、人は過去のものを駄目な物として切り捨てる。そうやって人間も切り捨てているのだ。

駄目という表現を別の表現にするなら、「階段を一段のぼった」ということだろう。一段一段のぼっていかなければその階段はのぼることができない。過去のものは必要な一段だったのだ。

だから、飛行機も人間も、駄目なものなどない。

また、その階段にはゴールはない。だから完璧な飛行機はないし、完全な人間などいない。今までもこれからも常に階段を一段一段のぼっていくだけなのだ。

階段は一段飛ばしでのぼることもできるが、人生において一段飛ばしをしたところで、つまづいて一段戻ることになるのがオチだ。

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2019.01.26

田久保紀子の憂鬱

パンダ
この女もなんか謎な雰囲気だな。

「それで、もう結婚もしないし、子供も作らない?」
「別にかたくなにそう決めているわけじゃないけど。ただ、もうのれないような気がするだけ」
「のれないって、何に?」
「人類の営み、みたいなもの?」

この小説は、仮想通貨を題材とはしているが、それ以外に「生」について考えさせられる内容になっている。

仮想通貨、仕事の悩み、女性の憂鬱、それらがうまく混ぜ合って独特の小説に仕上がっている。

人類の営み、というものが何を差すのかは人によって解釈はことなるだろう。

人は何かしら社会の歯車となり、その営みの中で生きている。仮想通貨を掘るように、「1satoshi」ずつ、少しずつゆっくりとゆっくりと何かを掘って生きている。

その先に何があるかはわからない。人類の営みには終わりがない。ただ、ビットコインはゴールが決められている。埋蔵量に規定を設け、計算上は2140年をもって新たなビットコインは採掘されない構造になっている。

現代を生きる人にはその結末は確認できない。2140年、その頃にはビットコインが通貨という枠の覇権を握っているのだろうか。それともそこまで辿り着かず消えていくのだろうか。

ニムロッド、おわりに

最初にも言ったが、この本は仮想通貨を知るには良いきっかけになると思う。

ビットコインの成り立ちやその簡単な仕組み、最小単位や採掘(マイニング)など、仮想通貨の初歩的な知識を本書で得ることができるだろう。

最後に一文を引用して締めるとしよう。

ひどいと思わないか。
ひどいと思わないか。

パンダ
よし、オイラもビットコインを掘るぞ。シャベル持って来い。
第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

上田 岳弘
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