
今回の書評は「リーダーの教養書」だ。
本書は11名の選者がそれぞれ教養書を紹介するというスタイルの本である。
選者は以下のとおり。
経営 楠木建
リーダーシップ 岡島悦子
日本近現代史 猪瀬直樹
コンピュータサイエンス 中島聡
経済学 大竹文雄
進化生物学 長谷川眞理子
数学 森田真生
医学 大室正志
哲学 岡本裕一朗
宗教 上田紀行
ここでは、出口治明氏と楠木建氏の章からいくつか引用したいと思う。
リーダーの教養書がオススメの理由

僕が一番気に入っている 「品がある 」の一定義は 、 「欲望への速度が遅いこと 」 。言い換えると 、抽象度を上げて物事を理解しようとする姿勢ですね 。これは教養の有無と深く関わっていると思います 。目の前の具体的な事象に対して 「これは要するに何なのか 」と考える 。これが抽象度を上げるということですが 、それは同時に思考の汎用性を上げるということでもありますね 。
品があるとは欲望への速度が遅いこと、これは現代人である我々が考えなければならない言葉だろう。何事も速いことが優れている、という風潮があるため誰もがせかせか生きているように見える。もしくは日本だけなのかもしれないだが。
その中でもじっくりと学び、欲望への速度を遅くすることで、本当の教養が身につくということなのだろう。現代のようなエスカレーター式の世の中で、そうやって自分を貫ける人はどのくらいいるだろうか。おそらく多くの人がまわりの流れに急かされて欲望への速度を上げてしまうことは目に見えている。そうならないよう地にしっかりと足をつけたいものだ。
教養を身につけたい人には本書は必ず読んでおくべき、と言っておきたい。
実用的な知識は教養と言えるのか

出口:実用的な知識というのは 、あるいは一年もすれば陳腐化してしまうかもしれませんよね 。
楠木:その通りですね 。それに対して教養は 、そう変わるものではない 。
実用的な知識というのは、今、世に多く出ているビジネス書やハウツー本を言うのかもしれない。もしくは何か専門的な知識を身につけてもそれが長く長く使えることは少ないという意味とも言えるかもしれない。
そうではなく大事なのは、時代が移り変わっても通用する知識。それが教養ということだ。ただ、教養とは何だろうか。陳腐化してしまうものはすべて教養じゃないとすれば、私たちが普段学んでいることはいずれ陳腐化してしまうのかもしれない。そうなると何を学べばいいかわからなくなり、一瞬置き去りにされた気分になった。
教養がない人間は人の上に立つな

上に立つ人間には教養がなければいけません 。もっと言えば 、教養がない人間は上司になってはいけないのです 。先ほども述べたように 、教養がなければ人生を楽しめませんから 、職場を楽しくすることもできませんし 、部下も楽しく過ごすことができないのです 。
これは多くの管理職や上司と呼ばれる立場の人に見てほしいところだ。現在、教養がない上司の割合はどのくらいなのだろうか。教養がないということを数値化できるわけではないので、線引きは難しいが、部下から投票させれば一目瞭然だろう。
あなたの上司は教養がありますか?
こんなアンケートを全国でとってみたらおもしろいかも。多くて2割くらいかな。
ただここで大事なのはどんな立場にいたとしても、教養がなければ人生を楽しめない、ということ。一度自分自身を見直し、教養を身につける努力をすべての人がするべきなのだろう。
リーダーの教養書まとめ
最後に次の文を引用して締めるとしよう。歴史から学べ、とは使い古されるほどよく使われる言葉だが、これほど深淵なる言葉はない。歴史から学べないなら人間の進歩はないに等しいのだ。先人たちの成功や失敗から学ぶべきことは何か、本書で紹介されている本を読んで勉強しよう。
最後にもう一度繰り返そう 。われわれには歴史という生きた教材しかない 。けれど 、歴史という長大な教材 、有益な教材があるとも言える 。そして 、歴史を通じて社会や人間についての理解を深めることは 、必ずや 、次なるリ ーダ ーとしての資質を鍛えることに通じるであろう 。これだけはまちがいなく断言できる 。
本書では11人の選者が教養をもつための本を紹介しているが、私が気になった本を2冊ほど紹介しよう。あとの本は本書を見て確認してほしい。
定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)
