
今回の書評は、「選択の科学」である。
まずこの本を理解するために著者を知っておいてもらおう。以下、プロフィールより。
1969年、カナダのトロントで生まれる。両親は、インドのデリーからの移民で、シーク教徒。1972年にアメリカに移住。3歳の時、眼の疾患を診断され、高校にあがるころには全盲になる。家庭では、シーク教徒の厳格なコミュニティが反映され、両親が、着るものから結婚相手まで、すべて宗教や慣習できめてきたのをみてきた。そうした中、アメリカの公立学校で、「選択」こそアメリカの力であることを繰り返し教えられることになり、大学に進学してのち、研究テーマにすることを思い立つ。スタンフォード大学で社会心理学の博士号を取得。現在、ニューヨークのコロンビア大学ビジネススクール教授。本書が初めての著書。
わかっただろうか。著者は盲目なのだ。では、内容を見ていこう。
選択は人生に必要不可欠なもの

人生を計るものさしは、人によって違う。年月、重要なできごと、業績など。だが人生は、わたしたちの行う選択によって計ることもできる。さまざまな選択が積もり積もって、わたしたちを今いるところに導き、今ある姿にしているのだ。このレンズを通して人生をとらえれば、選択がとてつもなく強力な力であり、わたしたちの生き方を決定する、必要不可欠な要因だということがはっきり分かる。これほどの力を秘めた選択だが、その力は何に由来するのだろう? そしてどうすれば、それを最大限に活用することができるのだろう?
選択は力なのだ。著者はアメリカに行って選択の持つ力を知った。選択次第で自分の人生が変わるということを知ったのだ。
あなたはどういうときにどのような選択をしているだろうか。
本書では様々な実験を通して、選択を科学的に検証している。あれ、どこかで見たことある、というものはおそらくこの本から引用したものが多いのではないか、と思う。
現在と将来の選択

今から1か月後に100ドルもらうのと、2か月後に120ドルもらうのとでは、どちらを選びますか?
それでは、今100ドルもらうのと、1か月後に120ドルもらうのとでは、どちらを選びますか?
このような選択は他でも見たことがあるかもしれない。あなたはどちらを選んだだろうか。
最初の問いでは、120ドルを選ぶ人が多いらしいが、2番目の問いとなると100ドルを選ぶ人のほうが多くなるそうだ。
多いほうがいいと思うのが普通だが、人間は将来の利益より目の前の利益を優先しがちなのだ。今100ドルがあったら何ができるだろうか、と考えるにはいられなくなるらしい。
ここで大事なのは、誘惑を回避する行為そのものを習慣化するべきと著者は言っている。
ジャムの試食実験からわかる人間の選択

ここではジャムの試食コーナーにいくつの種類のジャムを置くと良いか、という実験の内容を紹介しよう。
6種類の試食に立ち寄った客のうち、ジャムを購入したのは30%だったが、24種類の試食の場合、実際にジャムを購入したのは、試食客のわずか3%だったのだ。
この実験のことはあらゆる本でつかわれているもので、おそらくこの本からの引用が多いのではないかと推測する。
結局人は、種類が多ければ興味は示すが、実際に購入するときは選択肢はなるべく少ないほうがいいということだ。これはうまく使えばあらゆるビジネスに活用できるものだ。
また、選択肢が多すぎると人間の脳では処理できなくなり、とりあえずその場から逃げるという方向に舵を切るのだろう。仕事で追い込まれた人に似ている。
おわりに
この本は内容が濃密で、まさか盲目の教授の本とは思えないほどだ。本書では他にも多くの実験について書かれているので是非読んでほしい。
最後に、ピューリッツァー章を受賞した詩人の言葉を引用しておわりにしよう。
自由とは何か? 自由とは選択する権利、つまり自分のため選択肢を作り出す権利のことだ。選択の自由を持たない人間は、人間とは言えず、ただの手足、道具、ものにすぎない。
