
今回の書評は『The Great Leveler 暴力と不平等の人類史 戦争・革命・崩壊・疫病 ウォルター・シャイデル』だ。
本書のテーマは「不平等」である。
この不平等をいかに歴史が平等化してきたのか、という点について解説している。
その平等化の例として「戦争・革命・崩壊・疫病」、この4つをあげており、これらをまとめて「平等化の四騎士」と表現している。
そして本書の目的は「平等化のメカニズムの追求」である。
歴史では不平等は巨大な暴力で平等化されてきたが、別の方法を模索するという難題に立ち向かっている。
まずは歴史を知り、過去の平等と不平等を学ぶことで、これから来る未来に備えよう。
冒頭から一文を引用しておく。
そうすれば、分配によって余剰が均され、おのおのが十分なものを手にするはずだ。
『暴力と不平等の人類史』をオススメする理由

本書はいくつか章があるが、今回の書評は「疫病」の章を紹介したいと思う。
現在(2020年)、世界は新型コロナウイルスの猛威により、苦しめられている真っ只中である。
終息は見えていない。
私たちができることとすれば、過去の歴史から学ぶことなのだと思う。
「歴史は繰り返す」、手垢がつくほど使われた言葉だが、本書を読めば過去にもウイルスや疫病により、人間が翻弄されてきたことがよくわかる。
疫病の蔓延により多くの人が命を落としたことが過去に何度もあるのだ。
ここでは「ペスト(黒死病)」に関しての記述を引用しよう。
東西の文明は破壊的な疫病に見舞われた。この病は国家を荒廃させ、国民を死へ追いやった……
人間が住んでいた世界全体が一変した。
ウィキペディアからデータも引用しておこう。
古来複数回の世界的大流行が記録されており、14世紀に起きた大流行では、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したと推計されている。
おどかすわけでないが、これが歴史的事実であるからここに引用した。
今の新型コロナウイルスがこうなるとは思わない。だが先が見えない状況であるため予断を許さないのだ。
またペストは何度も繰り返し猛威を振るっている。
一度収束したからといって完全に終息しなければまた流行する可能性は高いのだ。
新型コロナウイルスも仮にある程度抑制できたとしても、インフルエンザのようにまた冬になれば流行するかもしれない。
現代医学であればワクチンや予防接種を早期に準備することも可能だろう。
だがそれもどうなるかはわからない。期待する以外に我々にはすることがない。
ペスト流行後の労働価値の高騰

職人、賃金労働者、荷物運搬人、使用人、馬丁、織工、作業員といった人びとの賃金は数倍に跳ね上がった。しかし、彼らの多くはもういない。ほとんどが死んでしまったのだ。この種の労働者を見つけるには、必死になって探す必要がある。
こうあるようにペスト流行により人口が減ったことで労働者の価値が上がったのだ。
要は賃金が上昇したのである。
またペストの犠牲者の遺贈や遺産相続等で富が再分配され、不平等がある程度解消されたのだ。
これは疫病だけでなく、戦争、革命、崩壊、すべてで起こることだという。
何か暴力的な出来事があったあとは、人口が減ったことにより不平等が解消される方向に向かうということなのだ。
疫病で考えれば、ウイルスや細菌は人口が少ないより多いときのほうが感染拡大しやすくなり、それにより人口が調整され、そしてウイルスの拡大も止まる、という流れなのだろう。
これは自然の流れというべきなのだろうか。
人口調整が必要不必要とかいう問題ではなく、人口が増えればウイルスが拡大しやすくなるという単純な自然の成り立ちにより、引き起こされているのだということがわかる。
現在世界の人口は約70億人だが、数十年後には100億人と突破すると予測されている。
貧富の差も広がり格差社会が問題となっている。
これらはいつか平等化される流れが来るのだ。それは予測や予想ではなく、過去の歴史がそうなることを教えてくれているのだ。
その平等化の流れが暴力的なもの(戦争・革命・崩壊・疫病)になるかそうでないかは、今生きている私たちに掛かっている。
過去の過ちを繰り返さないように人間は歴史から学ぶのだ。
歴史から何も学ばないのなら、人類の進歩とやらは遠い未来のことになるだろう。
疫病による大量死の可能性は低い

すばやいDNAシークエンシング(塩基配列決定)、この分野に使われる実験機器の小型化、コントロールセンターの設置とデジタル資源の活用により疫病の発生を監視する能力などが、われわれがが手にしている強力な武器だ。
現代において真に破滅的な疫病が発生する可能性は低いようだ。
現代の技術をもってすれば疫病に勝つことは困難ではないはずだ。
そうなるよう願いたい。
ただこうも書かれている。
伝染病で疲弊した経済においては、やがてロボットが、失われた労働者の多くに取って代わるかもしれないということだ。
人間が減ったとしてもロボットがいるから経済を回していくことは可能だろう。
これから先、人類が疫病とどのような戦いをして、どのように終息させるのか、それを私たち一人ひとりが見守っていかなければならない。
おわりに
最後に一文を引用して締めるとしよう。
じつに多くの場合、神がわれわれに見つけてくれる救済策は、われわれが直面する危機よりも危険なのだ。
