
子どもの教育に悩んではいないだろうか。
子どもにどうやって勉強させればいいか悩んではいないだろうか。
そんな人になこの本がオススメ。
著者は教育経済学者といわれる立場の人だ。教育経済学は教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている分野だ。
まずこの本の方向性を示すために次を見てほしい。
一般的な教育への考え方
・ご褒美で釣っては「いけない」
・ほめ育てはしたほうが「よい」
・ゲームをすると「暴力的になる」
これに対して著者の考え方はこうだ。
著者の教育への考え方
・ご褒美で釣っても「よい」
・ほめ育てはしては「いけない」
・ゲームをしても「暴力的にはならない」
さて、では内容を見ていこう。
子どもを“ご褒美”で釣ってはいけないのか?
よくあるセリフでこういったものがある。
「今ちゃんと勉強しておくのが、あなたの将来のためなのよ」
これをいわれる子どもからすれば、鬱陶しいのひと言に尽きるだろう。しかし著者いわく、この考え方は経済学的に正しいとのこと。
経済学には「教育の収益率」という概念があり、「1年間追加で教育を受けたことによって、その子どもの将来の収入がどれくらい高くなるか」を数字で表します。そして、教育投資への収益率は、株や債券などの金融資産への投資などと比べても高いことが、多くの研究で示されています。
経済学的に「今」勉強しておくことは将来の収入へとつながることがわかっている。
ではどうやって子どもに勉強させるのか。人間は遠い将来の利益よりも近い将来の未来を優先する傾向にあるらしい。
「目先の利益や満足をつい優先してしまう」ということは、裏を返せば「目の前にご褒美をぶら下げられると、今、勉強することの利益や満足が高まり、それを優先する」ということでもあります。
実は、子どもにすぐに得られるご褒美を与える「目の前ににんじん」作戦は、この性質を逆に利用し、子どもを今勉強するように仕向け、勉強することを先送りさせないという戦略なのです。
とにかく大事なのは「今」だ。子どもが大きくなるのはあっという間だ。
どちらのほめ方が効果的か
次のふたつのうち、どちらが効果のあるほめ方だろうか。
・テストでよい点を取ればご褒美
・本を読んだらご褒美
テストはアウトプット、本はインプットだ。実験の結果は、学力テストの結果がよくなったのは、「本を読んだらご褒美」だったのだ。
テストに直結しているほうがよくなるイメージだが、結果は逆なのだ。
これについて著者は、本を読むというのは何をすべきか明確なのに対し、テストでよい点数を取るというのは具体的な方法が示されないため、結果に結びつかなかったのではないか、と。
ここでの教訓は、ご褒美はアウトプットではなくインプットに与えるべき、ということである。
子どもはほめて育てるべきなのか
では次のほめ方はどちらが効果的だろうか。
・頭がいいのね。
・よく頑張ったわね。
先程の問いをやったあとだからすぐにわかっただろう。
実験の結果を引用しよう。
コロンビア大学のミューラー教授らは、ある公立小学校の生徒を対象にして「ほめ方」にかんする実験を行いました。6回にわかるこの実験の結果わかったことは、「子どものもともとの能力(=頭のよさ)をほめると、子どもたちは意欲を失い、成績が低下する」ということです。
能力をほめてはいけない、努力をほめるのだ。能力をほめることは子どものやる気を蝕む。
だが、世の中の親たちを見るとつい能力をほめるということをやりがちではないか。「頑張ったね」ではなく「すごい」とか「やればできるじゃん」とか。
子どもを本当に大事に思っているなら、そこまでに至った過程をほめることだ。うわっつらの結果だけをほめたところで子どもはよろこばない。努力している姿を見ているということを、伝えるのだ。
おわりに
本書では他にも「テレビやゲームの影響」「幼児教育の必要性」などが書かれている。気になる人は本書を確認してほしい。
最後に著者の思いを引用しておわりにしよう。
教育経済学の研究結果が、家庭、学校、社会における子育てや教育で活かされれば、調査対象者となってくださった生徒や教員のみなさんにこそ、もっとも大きな恩恵があるに違いありません。
教育に使うお金を絞るのではなく、知恵を絞って、教育に用いることのできる限られた資源を活きたものにしたい――教育経済学の研究者として、私はそう願ってやみません。
