
今回の書評は『HARD・THINGSハード・シングス』である。
これは、著者のベン・ホロウィッツが会社経営を通して、体験した様々なことを紹介した本だ。内容的には自己啓発本のような立ち位置かもしれないが、池井戸潤小説のように次から次に起こる難問、困難にどのように立ち向かっていったのかが克明に描かれている。
序文の小澤隆生氏の言葉を紹介しよう。
吐き気と悪寒。本書を読みながら、何度も何度も感じた症状である。
経営で本当に難しいこと

まず、著者がマネジメントの本を読むたびに感じたことを紹介しよう。本当に難しいのはそこじゃない、と。
本当に難しいのは、大きく大胆な目標を設定することではない。
本当に難しいのは、大きな目標を達成しそこなったときに社員をレイオフ(解雇)することだ。
本当に難しいのは、優秀な人々を採用することではない。
本当に難しいのは、その優秀な人々が既得権にあぐらをかいて不当な要求をし始めたときに対処することだ。
本当に難しいのは、会社の組織をデザインすることではない。
本当に難しいのは、そうして組織をデザインした会社で人々を意思疎通させることだ。
本当に難しいのは、大きく夢見ることではない。
その夢が悪夢に変わり、冷や汗を流しながら深夜に目覚めるときが本当につらいのだ。
著者は成功するマニュアルなどないと言っている。しかし、自分自身が直面したことを語り、その体験から得た教訓を伝えることで、若い創業者の一助となればと考え、この本を書いたそうだ。
この本は、今まさに起業で困難に直面している人はもちろん、これから起業を目指すという人にもオススメだ。
人の成功から学ぶより、人の失敗から学ぶほうがはるかに有益でタメになるものだ。著者がどのように困難を乗り切ったかが参考になるだろう。
つらいときに役に立つかもしれない知識

次の一覧は、答えではないが著者の助けになった考え方とのこと。
・ひとりで背負い込んではいけない。
・単純なゲームではない。
・長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない。
・被害者意識を持つな。
・良い手がないときに最善の手を打つ。
ごく当たり前のことかもしれないが、追い込まれたときほどこういった基本的なことが役に立つことが多い。それは仕事だけでなく人生全般において言えるだろう。
だがこれが答えではない。それぞれの項目においても解釈は人それぞれだろうし、その場面ごとでまた変わってくるだろう。
要は、自分で答えを見つけるしかない、ということだ。
人を大切にする

かつてネットスケープのCEOとして私のボスだったジム・バークスデールがよくこう言っていた、「われわれは、人、製品、利益を大切にする。この順番に」。単純だが奥深い言葉だ。「人を大切にする」ことは、3つの中でも図抜けて難しいが、それができなければあとのふたつは意味を持たない。人を大切にすることは、自分の会社を働きやすい場所にするという意味だ。ほとんどの職場は、良い場所とはかけ離れている。組織が大きくなるにつれ、大切な仕事は見過ごされるようになり、熱心に仕事をする人々は、秀でた政治家たちに追い越されていき、官僚的プロセスは創造性の芽を摘み、あらゆる楽しみを奪う。
人を大切にすると言っている会社や経営者は多い。しかし、その中身が伴っているのかと言えばそこは怪しい。それはその会社の中で働いている社員しかわからないことだ。
そもそも人を大切にするとは何なのだろうか。給料が良いことだろうか。上司の人柄が良いことだろうか。業績が良いことだろうか。
社長と社員で認識が異なれば、社員を大切にする会社かどうかは意見がわかれるのだろう。
これにも明確な答えはないのだ。
おわりに
この本には起業で経営者が悩むだろうというポイントが数多く書かれている。これを読む込むことで起業で起こりうるトラブルを減らすことができるのではないか、と思う。
それでも予期せぬことは起こると思うが。
最後に、マルクスの言葉を紹介しておわりにしよう。
人生は苦闘だ。 哲学者 カール・マルクス
