
今回の書評は「ジョブ理論」である。原題は「competing against luck」でグーグル翻訳で調べてみると「運との競争」となり、邦題と原題ではニュアンスは少し違うものになっている。
ジョブ理論に大事なのは、プログレスであってプロダクトではない

何が顧客にその行動をとらせたのかを真に理解していないかぎり、賭けに勝つ確率は低い。だが、イノベーションとは本来、もっと予測可能で、もっと確実に利益をあげられていいはずだ。必要なのは、ものの見方を変えること。だいじなのはプログレス(進捗)であって、プロダクト(商品)ではない。成功を願ってイノベーションにわが身を投じ、組織の資源も注ぎこみ、そのたびにぱっとしない結果で終わっているなら、あるいは、顧客がプレミア価格を払ってでも手に入れたいと切望するようなプロダクト/サービスを生み出したいのなら、あるいは、運頼みのライバルを蹴落とし、イノベーションの競争に真に勝ち抜きたいと願うのなら、本書をぜひ読んでほしい。本書はあなた自身の生活も進歩させるはずだ。
勝つためには運頼みではダメだと著者は言っている。焦点をあてるべきは顧客の行動を理解することなのだ。
有能なイノベーターを何を見ているのか

世界中の有能なイノベーターはほとんど、ふつうの人とはちがうレンズで問題を見ている。ハーツはなぜ、ジップカーのようなカーシェアリングのサービスを最初に思いつかなかったのか? コダックは、マークザッカーバーグよりずっとまえにフェイスブックに似たサービスをつくりかけていた。大手ヨーグルトメーカーは、トルコからの留学生、ハムディ・ウルカヤがチョバーニ社を立ち上げるずっとまえからギリシャヨーグルトには需要がありそうだと感じていた。AT&TはアップルのiPhoneより何十年もまえ、1964年の世界博覧会でテレビ電話を実演していた。だが、それらのイノベーションを市場で最初に成功させたのは、彼らではなかった。
どんなアイデアも誰かひとりだけが思いつくということは絶対ない。その時点で何人もの人が思いつき、どのように世の中に広めるか考えているはずだ。もしくはすでにそれに挑戦し、失敗して撤退しているということも考えられる。
誰がいつ思いつくかが大事なのではなく、そのアイデアをどのように料理していくかということが大事なのだ。何十人がそのアイデアを思い付いたとしてもそれを形にできるのは、1人かもしくは0人だ。
ジョブ理論はどのように考えるかがポイント

アカデミックな場に身を置く私は、特別な知識もない業界や組織のビジネスが抱える課題について意見を求められることが年に何百回とある。それでも見解を述べることができるのは、何を考えるかというより、どのように考えるかを教えてくれる、理論の詰まった道具箱をもっているからだ。優れた理論は、最も役立つ答えが得られる質問を投げかけ、それをつうじて本当の問題が何かを組み立てる。理論を採用するということは、学術的な細ごましたことにとらわれるのではなく、むしろその逆で、何が原因で何が起こるかという、このうえなく実用的な質問に焦点を絞るためである。
ここでのポイントは、何を考えるかではなくどのように考えるか、ということ。
仕事に置き換えて考えると、何に取り組むかよりも直面した問題をどのように対処していくかのほうがはるかに重要だったりする。何を選ぶかの選択権はあるようでない。しかし、どのように考えるかは選択権は自分が持っているし、それを活用しなければならない。
どのように考えるか、ということを放棄してしまってはあなたがそこにいる意味はないのだ。あなただからこそ考えられることを考えるべきなのだ。
きっとどの仕事についているかよりも、目の前のことにどのように立ち向かうか、が人間には大事なのかもしれない。
少し話はちがうかもしれないが、株や仮想通貨のトレードで言われるのは、どこでエントリーするかよりもそのあとの値動きにどのように対応するかが大事、ということだ。買いで入って上がったなら利確するべきだし、下がったなら早めに損切りするべきなのだ。
要は、上がるかどうか考えるよりも、値動きに対してどのように考えるか、がトレードにも欠かせない考え方ということだ。
おわりに
最後に本書の中の一文を引用して締めるとしよう。
これはどんなビジネスにもあてはまる深い言葉である。目的を見失ってはいけない。
新しい家を建てるビジネスだと思っていた。だが、顧客の人生を移動させるビジネスだった。
ボブ・モエスタ
